2013-01-01から1年間の記事一覧
この初期ノートは1950年頃に書かれているようなので、つまり敗戦直後の混乱期にいる吉本が書いているわけです。吉本は「精神は抒情の秩序を失ってしまった」と書いています。戦争に敗北し、天皇が人間宣言をし、軍人たちが戦犯として処刑され、進駐軍が…
自由というものは長い長い忍耐のうちにしかない、ということを吉本は後年、自由ではなく「自立」という概念にしたといえると思います。長い長い忍耐をして、気がつけば白髪のおじいさんということになります。それじゃ生きることに疑惑を感じるのも無理はな…
吉本のお姉さんは敗戦後の食い物のない時代に肺結核で亡くなるんですね。お姉さんは短歌を作るのが好きだったわけです。初期ノートのあとがきにありますが、お姉さんが参加していた短歌誌の主催者の人に、当時の吉本の勘繰りでは、お姉さんは秘かに好意を寄…
これだけでは何の誘惑だかわからないわけですが、前後の文脈から判断するとおそらく死の誘惑なんだと思います。死にたいという誘惑がある人は確かにいます。私にはそういう誘惑がないからわからないんですが、その誘惑に誘われて実際に死んでしまう人もいま…
吉本に怠惰といわれても、あんなに努力した人はいないんじゃないかと思っているからピンとこないですが、主観的には怠惰なんでしょうね。いろんなところで自分のことを怠惰だと言ってますから。怠惰ということと隣り合わせなのはデカダンスでしょう。デカダ…
いっぽうで化学の実験や仕事をやりながらこういうノートを書いているんでしょうね。思考を化学実験のように描くからね。要するに死んじまおうとまで思い詰める寸前に、それを忘れて生きるほうへ振り子が振れることが繰り返されたということをいっています。…
言語的世界というものがあって、言語的世界が生まれ出るもやもやとした心の世界があるとすると、その心の世界が形成されるのにはふたつの経路があって、ひとつは身体の外壁系の感覚諸器官から入ってくるもので、もうひとつは内臓系の諸器官から入ってくるも…
この考え方も初期ノートのなかに何度か登場するものです。吉本の文体には化学の学徒としての教養と体験が入り込んでいますから、これもエネルギー不変の法則みたいな記述になっていると思います。吉本にはなにが痛手だったのかと考えると、さまざまなことが…
なんだか難しい言い方をしていますが、私なりの平ったい言い方で解釈すると芸術というのは植えつけられた価値観を疑う、ということをどうしても伴うということじゃないかと思います。世間に流通している価値の秩序というものがあります。知識のあるほうが無…
1980年代に入ってから吉本は「マス・イメージ論」を書き、高度資本主義とか超資本主義というべき現在の社会の解明に力を注ぐようになりました。その一連の考察のなかでこの文章にも出てくる「速度」の問題を取り上げています。社会的な速度、時間の流れ…
これはへたな解説は不要なので、このまま読んで伝わってくるもので十分だと思います。これが吉本の終生変わらなかった思想的肉体というべきもので、吉本の思想をおおかたの政治的人間や知的人間の思想と別のものにさせているところだと私は思います。意味だ…
これも微妙なことがらを述べていて、はらわたで聴くしかないものです。現在に関わることが、いつも根源的なことに同時にかかわることだという吉本の資質というか過敏さのようなものがここにあると思います。それが現実に膜をかけているといえばいえるし、現…
「言葉の自由になる という言い方はあまりこなれていない言い方だと思います。人間が幼児期に言葉を獲得するときに、すでに言葉は外部に存在します。幼児はそれを習得していきます。しかし同時に言葉は人間が人類史として、どこかで自ら生み出したものです。…
僕が何者であろうとも、というのは様々な解釈ができますが、僕が為した結果がどのようであろうともということではないかと思います。僕が才能のない者であろうとも、僕が貧しさに拘束された者であろうとも、僕が孤立を余儀なくされる者であろうとも、僕の為…
これは実践という意味が政治的実践ということならば、マルクス主義として昔よく言われていた理論と実践の弁証法的統一というような意味になると思います。マルクス主義の現実変革の理論はマルクス主義の党派が指導する政治的な実践を通して現実の変革を成就…
これは吉本の考え方として何度も登場するものです。つまり目的を持つという以前に我々はすでに無意識の時期としての乳胎児期を持っているわけです。つまりすでに生きちゃってきているわけです。それが生存の意味です。目的というものは我々が言語を獲得し、…
反抗というのは抑圧された者が抑圧している者にあらがうこと、さからうことでしょう。独裁的な政府に対する民衆の反抗、経営者に対する労働者の反抗、教師に対する生徒の反抗、父母に対する子供の反抗。抑圧されているということが劣等意識を生み出す。その…
これはマルクス主義的な人間観に対する反抗だと考えるとわかりやすいです。人間は遠くの未来の理想社会のために人生を生きるというようなものじゃない。思想として長い歴史時間を考察することと、100年も生きない短い個人の人生をどう生きるかということ…