2009-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「人間が他人を認識するのは、習熟によってであり、その習熟が如何なる種類のものであっても、この原則は適用されて誤らない」(批評の原則についての註)

これは一種の逆説を語っているのだと思います。他人を認識するのは鋭い観察力とか洞察力とかによる、というのが普通考えられることです。しかしそれは一発勝負というか、ある時点で行う優れた判断ということであって、時間的な繰り返しという概念を含んでい…

「わたしはしかたなしに孤独な希望を刻みつけなければならぬ」(第二詩集の序詞(草案))

吉本は戦後少数ではありましたが、同じような思想を持ってともに戦うという思想的な連帯感を感じる人たちを持っていたと思います。それは必ずしもつきあいがあるとは限りません。しかし次第にその連帯感は失われ吉本は孤独になっていきます。そして現実とい…

「人間精神の現代的な課題は、必ず解かれなければならない。われわれの現代は、かかる種類の批評家をもってゐない」(批評の原則についての註)

吉本は常に現代的な課題というものに執着してきました。言い換えれば常に「現在」というものを必ず解かなければならないと考えてきました。一貫してそうですね。批評家というものはみんな現代的な課題を追求してると思ってやってるでしょうが、吉本には本格…

「僕はひとびとのように現実の危機に対しての人間の生の不安、絶望を強調するわけにはいかない。ただ、それをもっともだと感じているだけだ。僕は人間そのものに絶望してゐる。これ以上、何に絶望できるか?」(断想Ⅵ)

現実の危機に対しての生の不安とか絶望というのは、戦争直後の若き吉本の時代に活字上でよく語られた現代の精神の問題への語り口の一つです。それに対して吉本は不満なわけです。そんなことで済ますわけにはいかないぞ。そりゃべつに間違ってはいないだろう…