2011-12-01から1ヶ月間の記事一覧

下町は亡霊が蘇つたやうに、昔のままになつてゐた。老舗は元のままの位置に新しい営みをはじめてゐたし、ミリカの母はそこにゐたのだから。ただオト先生の家だけがそこになかつた。

これはいきなり読めば吉本さん突然何をゆっての?という感じだと思います。吉本は「エリアンの手記と詩」という長編詩を初期に書いています。この初期ノートの断片はその長編詩の設定をもとに書かれています。エリアンの長編詩は私小説みたいなもので、エリ…

昨日、ミリカの家の方を訪れた。母のみ。(一九五〇・四・二)(下町)

昔々高校生のころに、好きになった女の子の家の外の路上でその子の部屋の灯りをじっと見ていたことがありました。今ならストーカーと呼ばれちゃう。でもアンタもあるでしょそんなコト。エロスなんて言葉はアチャラカの言葉でよくわかんないけど、寒い路上で…

独りの少女がゐて……、独りの少女がゐて窓辺に近くピヤノを打つてゐる。ああそれはづつと昔、僕がどこかで視たやうな記憶がある。現在、独りの少女は低脳な唯物論にふけつてゐた。靴のかかとを三分高くする方法についての……。(風の章)

この古臭い、そして女性に対するコンプレックスが露出している部分は吉本自身が公開するには恥ずかしいものだったと思います。「窓辺でピヤノを打つ少女(#^_^#) 私は吉本が育った月島の町を知ってるけど、あんなど下町にそんなお嬢様なんかいないっての。靴…

己れの生涯を忠実に生きぬかないものは、人類の現代史を生きぬくことは出来ない。これは明瞭なことだ。そして現在の僕は何もわからなくなつてゐる。(風の章)

むかしむかしの60年安保闘争の後で、分厚い「安保闘争史」といった書物を書いた学者がいた。吉本の言い分では自分を賭けもせず闘争をやり過ごしておいて、メディアの記事だけ寄せ集めて闘争史なんて書くバカの気がしれないというものだった。他人の戦いを…