2012-07-01から1ヶ月間の記事一覧

僕らは正しいことをやる奴が嫌ひだ。正しいことはしばしば狡猾に巧まれた貪慾である。倫理が他人がそれに従属すべきもので自らは関知せぬと思つてゐるものは、この正義の士のうちにある。(〈少年と少女へのノート〉)

ここでいう正しいこととは倫理的な意味の「正しいこと」を指していると思います。誰も反対できないような大義名分、あるいは正義、そういうものを大上段に振りかざしてものを言う連中が嫌いだといっています。それはなぜかというと、ひらたくいえば言ってい…

人間は経験といふものなしに宿命を深化することは出来ない。それ故経験とは屡々(しばしば)似非秀才によつて軽蔑されるあれよりも、遥かに複雑な、重たい意味を持つものだ。(原理の照明)

吉本の考えでは胎乳児期に無意識の核の領域が作られます。乳児期を脱し幼児期になると、無意識が意識の領域にむかって拡がっていき、同時に無意識の中間層がつくられます。そして児童期に至って、胎乳児期に形成されたものが現実世界と衝突させられることに…

一つの決定的な宿命といふものが、如何にして一つの可能性をあらはすかと言へば、それが多様な構造によつて支へられてゐるからである。この構造の多様性といふものは僕らの否定といふもののもたらす効果とも言ふべきものであつて、僕らが離脱しようとする意志によつて生成せしめてゐる。(断想Ⅱ)

言葉使いが難しくて分かりにくいですね。そこで宿命という言葉を必然性という言葉に置き換えてみます。ある個人の生き方のなかに他にどんな道も辿ることができなかったという必然の道筋があるとすると、その必然の道筋というものはその人の内面と外部の現実…

精神の集中の周囲には必ずひとつの真空がある。我々はこの真空を個性と考へる。そこで個性といふのは、よく考へられるように個人が所有する特性ではなくて、個人の所有する場である。(〈虚無について〉)

吉本が「母型論」を書くことで推し進めたい思想の夢は、吉本の言葉でいえば人類の歴史をお猿さんの段階からぶっとおすことです。ぶっとおすというのは一貫した理解を人類史の始まりから現在にまで貫きたいということです。若き日に吉本が直感した個の精神が…