2016-09-01から1ヶ月間の記事一覧

深い静寂について、又茫漠として意識の遠くにある海について、あきらかに今沈まうとしてゐる人類の寂しい夕ぐれについて、あの不気味な地平線の色について、誰が僕のとほりに考へるか。(夕ぐれと夜との独白(一九五○年Ⅰ))

こういう西欧の翻訳された文学に影響された比喩を使って書くことは初期ノートの特色ですが、それは若いからだと思います。「今沈もうとしている人類の寂しい夕ぐれ」なんて照れくさい比喩はだんだん吉本は使わなくなります。そういう比喩を自分に許すときに…

風景は僕の精神のとほりに歪んでゐる。虚無は霧のやうに拡がつて、樹木は棒杭のやうに林立してゐる。そのなかに人々が嗤(わら)ひのやうに移動してゐた。(夕ぐれと夜との独白(一九五○年Ⅰ))

イキっとんなあ。 おまけありません。

〈思考の体操の基本的な型について〉 第二型 抽象されたものを更に抽象化する演習 第三型 感情を論理化する演習 論理を感情に再現する演習(〈思考の体操の基本的な型について〉)

初期ノートのこの部分は以前にも解説したと思いますが、若い吉本が論理というものにいかに凝っていたかがわかる部分です。スポーツに凝った人がゲームだけではなく、素振りをしたり握力を鍛えたりしようとするように、吉本は論理的に現実の問題を考えるだけ…

一の体制のなかにある人間はあたかも何ものかのうへに乗つてゐる心理を伴ふもので、これが体制といふものの心理的な基礎である。疎外された階級は動揺する心理をさけることが出来ないのであつて、これは少年たちの世界においてすら存在するものである。(〈思考の体操の基本的な型について〉)

「知識」の同時代の範囲を超えることを目指して、自由に感じ考える。それを失うと人類が長い間疑問なくおさまっていた共同体への受動性のなかに退行する。退行は何者かのうへに乗っている安心感といってもいいし、自由を求めることは動揺することといっても…