2016-07-01から1ヶ月間の記事一覧

悲しい僕らの国の現実。或る者はアメリカ式の感覚攪拌の音楽によつて踊り、或る者はソヴイエト・ロシヤ式群舞踊によつて踊つてゐる。しかし僕の魂は如何なる形式でも舞踏しなくなつてゐる。僕の関心は正しく悲劇的と呼ぶべきものであらうか、この国ではいつも悲惨な運命を負はされざるを得ないものだ。(中世との共在)

音楽というのは音楽そのものを指していると同時に、比喩としてアメリカのイデオロギー、ソ連のイデオロギーのことを指していると思います。アメリカから民主主義として押し付けられるものも、ソ連から社会主義として押し付けられるものにも僕の魂は踊れない…

もの判りの悪い僕の魂のために、ひそかに思考の道をつけてやること。(〈夕ぐれと夜の言葉〉)

これは解説にしようがないですね。もの判りが悪いというのは、どんな音楽にも踊れないという比喩にあるように否定に囚われた魂のことでしょう。それをなんとかするには思考すしかない。わかるということが否定せざるをえない現実を見渡すことのできる唯一の…

人間は有史以来、触れないで済ませた盲点を有つてゐる。如何なる天才も逃してきた盲点がある。僕の好奇心はこれを解かうとするが解き得たためしがない。だが何日のまにかそれを体得してゐると言ふ具合だ。しまつたと思ふが、既に体得されたものは解くことは容易だが、藻抜けの殻のやうに説明に終る。決して好奇心を動かすことはない。(原理の照明)

有史以来人類が触れないで済ませた盲点とは何でしょう。書いてないのでわからないわけですが、その盲点は言葉で解明しようとしてもできないのに、いつのまにか体得している。なんとなくわかったような感じがするということでしょう。このなぞなぞのようなも…

我々は虚無において神への上昇も現実への下降も許されない。(〈虚無について〉)

吉本にとっての、というか日本人にとっての戦時中の神は天皇だったわけですが、その天皇へ戦後に再び上昇する、つまり信仰することはできなかったわけです。現実に下降しようとしても、その現実に吉本が拒絶するもの、否定するものがうごめいていれば、現実…