2013-12-01から1ヶ月間の記事一覧

あるがままの過去を、ないように見せかける必要から、わたしは遙かに遠ざかつているし、ことさら体裁をとりつくろわねばならぬ根拠も、もつていない。(過去についての自註)

この文章は、具体的に考えるとひとつには戦後吉本が評論家として登場したときに「文学者の戦争責任論」を提起したわけですが、吉本は自分が戦争中に戦争を肯定する愛国青年であったことをいっさい隠し立てしなかったことを指すと思います。しかし吉本が戦争…

これは、わたしが虚偽から遠いからではなく、わたしの思想が、「自然」にちかい部分を斬りすてず歩んできたし、いまも歩んでいるからである。(過去についての自註)

わたしが若いころ吉本を読み始めて、こんな考え方にははじめて出会ったという驚きを感じたのは、知識を増やしていくということが人間にとって「自然過程」にすぎない、というところでした。自然過程という言葉は吉本がよく使う言葉ですが、ほっておいても自…

宮沢賢治には祖国がない けれど彼が日本の生んだ永遠の巨星であることは疑ふべくもありませんでした 彼の非日本的な普遍性に対して私は考へつづけました それの解決は私自身の直面してゐた種々の苦悩の解決に重要な部分を成すことは明らかでした(創造と宿命)

宮沢賢治の祖国のない非日本的な普遍性というものは、ひとつには科学者としての科学の普遍性からきているのだと思います。宮沢賢治は科学者であると同時に熱烈な日蓮宗の信者でした。宗教というものはその発生から国家以前に遡るものです。宗教というのは古…

私は彼の出処行蔵を検討してゆくうちに、そのなかに彼の行為の言動となつてゐる思想が全く日本的であるといふ事実を発見致しました 私はここでそれを例証する繁雑さをさけたいと思ひますが、その事実は実に不思儀に思はれて来ました 彼の作品の中の非日本的な豪華さや、彼の感覚や言行の汎人類的な主張と、彼の行為の背後に流れてゐる無形の日本的な思想と、それらは如何にしても調和するとは考へられませんでした(創造と宿命)

「グスコーブドリの伝記」の特徴として吉本があげているのは自然観以外にもうひとつあります。それは「超人になりたい」という宗教的な願望です。超人、あるいはにんげん以上の存在になりたいというのは、法華経でいえば菩薩になりたいということになります…