2011-10-01から1ヶ月間の記事一覧

社会とは不逞な僕から何もせしめることが出来ない代りに、僕になにもさせることをしないところだ。死すらも僕のために提供されてゐない。(〈夕ぐれと夜との言葉〉)

これは要するに死に場所がないという気持ちだと思います。時代劇でいくさで負けて浪人になったような男がよく口にする情念です。死に場所が欲しいのに良きいくさがない。だから浪人になって酒をくらいながら用心棒なんかをやっている。そんな時代劇に共感す…

且て死を選択することのなかつた幸せな人にお目にかかりたい。(〈少年と少女へのノート〉)

お目にかかりたかったら、そういう人はいくらでもいると思います。やっぱり幸せな人っていうのもいるんだと思います。それは死を選択するか死なんて考えないかということの分かれ道が人が生まれて育つどこかにあるということです。では理想的に生まれ、理想…

正系主義が支配と搾取とを、人種学的および神学的論拠を以て理論づけることは、どこでも同じである(オツペンハイマア)(エリアンの感想の断片)

これはオッペンハイマアという人の言葉ですが、オッペンハイマアがどういう人か私は知りません。ただ吉本がこの文章を引用したのはやはり天皇制の問題について重要なことを言っていると感じたからだろうと思います。正系主義とは祖先に崇敬するべき始祖がい…

もう夕暮だ。一日のうち風はしづまり、又吹き、ふたたびしづまらうとしてゐる。そして一日のうち曇り又晴れまがみえ、ひわ色の斜光が充ちてゐる。僕は誰よりも寂かにひそんでゐる。不安を凝固させようとして……。(〈少年と少女へのノート〉)

この吉本の抒情性のなかに登場するのは風と光です。これは「固有時との対話」という詩集にも特徴的な感性だと思います。風と光だけが自然感性としてあるいは抒情として吉本に許容されているのだと思います。あとのものは、すべて批判的な思考の対象と化して…