2009-03-01から1ヶ月間の記事一覧

「僕にはまだどうしても現実の構造がわかってゐないらしい」(断想Ⅵ)

初期ノートを書いていた時代の吉本は、戦争中に信じていた世界観を打ち壊されてマルクスの世界観に始めて触れて衝撃を受けている頃なわけです。私が世界観に大きな衝撃を受けたのは、近年では小泉政権ができて以降のことです。小泉と竹中が郵政の民営化を強…

「人間は支配の秩序に馴致された精神の秩序を有ってゐる。名誉欲、金欲、支配欲。だから性欲はいちばん純粋なものだ」(断想Ⅵ)

性欲は今の吉本の考えに沿っていえば、純粋であるというより人間の中の動物性を根底にしているものだということじゃないかと思います。動物に性欲があるように人間にも性欲があるわけです。しかし性愛の対象がこの異性じゃなきゃダメだというような意識は、…

「自分自身を救済すべくにんげんはその青春を費やす。その結果がどうであるかぼくは知らない。ぼく自身の孤独のなかに誰もはいることはできない」(断想Ⅶ)

孤独とここで言っているのは友達がいないとか、会社で上司から嫌がらせを受けているという孤独のことじゃないですね。自分が自分自身と自問自答するような、自分との対話ってあるでしょう。あなたもやってるでしょう。「自分の世界に入っちゃってる」とかよ…

● 「与えられた任意の場所から出発するための条件。われわれは常に用意されてゐなければならない」(断想Ⅶ)

吉本の講演CDで聴いたんですが、吉本は福岡を例に取って彼の都市論を語りました。そしたら聴衆から質問があったんです。もし役所の都市計画課とかで仕事をしてる人が、吉本さんの都市論に共鳴していてもそれが実現できない現実があったらどうしたらいいか…

「世には弱しい魂の主人がゐて、薄暗い軌道しか歩まないやうになってゐる。僕は、そのひとのためにのみ何かを語るようになりたい」(夕ぐれと夜の言葉)

弱々しい魂の主人というのは、やはり胎児期、乳幼児期に母親との関係で深くついた傷を無意識の中に宿している人、ということになるかと思います。そういう人の歩む薄暗い軌道というのは内面の軌道であって、内向的であり、おどおどしていて、万事受身であっ…

「この国の社会様態は、中世人と現代人とを同時に共在せしめてきた。今や、経済的悲惨は、個々の人々を分裂せしめてゐる。即ち、生活様態は中世的に、頭脳は現代的に。 且てこの分裂は、知識人と労働者階級との間の分裂であり、同時に均衡であったが、今や、個々人の内部における思想と様式、現実と精神の分裂をうながしてゐる。即ち、四重の双極子分裂の状態が、この国における形而上的な表情である」(中世との共在)

日本の中世的っていうのは、要するにアジア的ということだと思います。現代的というのは欧米的ということでしょう。かってそれはインテリは欧米の模倣を行い、大衆はアジア的な生活と思想の中にいた。でも社会全体が次第に欧米的になっていって、個々人の中…