2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧

思考を表現するために技術が必要だ。技術なくして表現が成立つといふ一つの迷蒙。だれもその迷蒙を信じてゐるものはないだらうが、実行してゐるものは稀だ。(原理の照明)

思考を表現するものは音楽、絵画、演劇、学術論文などいろいろありますが、ここでは文章や詩の表現のことを指しているだろうと思います。言葉の表現には技術がいる。技術とは比喩とか韻律とか写実とかイメージとか構成とかさまざまな要素が考えられます。そ…

環境のなかに虫のやうに閉ぢこめられてゐる者が、徐々に動き出すときの形相を僕は正視しよう。そこにはあらゆる現代における思想の表象としての劇がある。(原理の照明)

こういう言葉を裏打ちするのは吉本の文芸批評家としての目利きさです。たとえば高橋源一郎が「さよならギャングたち」で登場した時の吉本の批評は、環境のなかに虫のように閉じ込められた者の蜘蛛の巣のような心的領域がどこにも還元されることを拒否して言…

若しすべてのもののうちひとつのものを愛するならば、我々はそのもののためにこそ生きるべきものである。(断想Ⅳ)

ここで言われているすべてのもののうちひとつのものというのは恋愛対象の異性と考えてもいいし、自分の子供と考えてもいいし、さまざまに当てはめることができると思います。しかし私たちが幼児であった時に、愛する対象としてすべてのもののうちひとつのも…

僕が薄明りのやうに訪れる希望の曙光に胸をおどらせるといふこと。これには思つたより重大な意味がある。(断想Ⅵ)

吉本もなんらかの理由で生涯のはじまりにNOを背負った人物です。それは幼児期、あるいは新生児期、あるいは胎児期にさかのぼって考えることができますが、それを明確に把握することはとても難しい。なぜなら母親が我が子に真正直にその時期の真実を語るこ…