2014-09-01から1ヶ月間の記事一覧

打ち砕かれた方法的な体系を組立てるに際し、僕らは常に意識的な悲しみを必要とするものである。(方法的制覇)

具体的にいえば、打ち砕かれた方法的な体系というのは軍国主義のイデオロギーということになると思います。吉本が戦中に信じた日本帝国のイデオロギーが敗戦によって打ち砕かれたということです。それを組み立てるというのは、戦後の社会でもう一度自分が信…

僕らは執着することは出来ない。受容するだけだ。(忘却の価値について)

これは受け身ということを言っているわけです。受動性です。執着というのは意思です。忘れないぞとか絶対たたかってやるというのが意思です。しかしそういう覚悟や意思というのはもろいものです。それは世界が変わると変わってしまう。しかし世界からやって…

古代人は抑圧に対する心理的な反応を宗教心に基づいて発動した。抑圧、欠乏の心理が美しい意想において発動されたとき古民謡がそれを代表するものであつた。近代の抑圧に対する心理は経済的及び社会的な体制の打破に向ふことは必然である。(芸術家について)

このノートに書かれた発想、つまり古代の人々が生み出した美しい、壮大な、妖しい幻想の土台には抑圧、欠乏の状態に置かれた共同体の生活があるという発想は、粘り強く追及されて後年の「共同幻想論」にまで展開されていったといえると思います。たとえば「…

人間は抑圧や欠乏のうちにおいても尚生産し創造することが出来る。それは一つの精神の反覆作用に似たものである。併しながらそれなるが故に、経済社会学的な革命を排さうとする芸術家の心理的な偏向は、不当であると言はなくてはならない。(芸術家について)

政治と文学という主題を吉本が十分に解明していない時代の吉本の考察なんだと思います。政治と文学という主題は当時の左翼の大きな問題意識であり、吉本はその主題に取り組むなかで自分の思想の道を発見していったといえます。それについてはまた長い話にな…