2015-01-01から1ヶ月間の記事一覧

そして秘やかな夜が来た。勿論、三月の外気は少し荒いけれど、それはあたかも精神の外の出来事のやうだ。夜は精神の内側を滑つてくる。甍(いらか)のつづき。白いモルタルの色。あゝ病ひははやく癒えないだらうか。僕は言ひきかせる。〈精神を仕事に従はせること〉。(夕ぐれと夜との独白)

精神が外界と遊離して、現実と離れてただよっていく感覚が描かれています。敗戦の与えた衝撃が若い吉本にそれを強いているのだと思います。これは病ひだという認知が吉本のなかに生きています。つまり病ひに抵抗できています。そこで精神を現実につなぎとめ…

この世は仕事より高級なことも、仕事より低級なことも、そして複雑ささへ、それ以上でも以下でもないのだから。(夕ぐれと夜との独白)

これは仕事というのを「現実との関係」というふうに読みかえればいいような気がします。現実と関係し、現実を分析し、現実と格闘する。それ以上に高級なことがどこか「いと高きところ」にあると考えない。もっと高度で複雑で知的なことがあるとも考えない。…

公式的解釈以外の方法でこの国の現実的な社会構造が明晰にせられたことは且てない。正しく思想家や政治哲学者によつて解かれるべき問題に、非力な僕が当らねばならないとは!本質的な意味で、この国の社会構造はヨーロツパにおける中世から近世への推移をたどつてゐるように思はれる。社会思想が積極的な役割を果すものとすればそれは次の三点に要約せられる。(Ⅰ)政治及び立法府を占める者の封建的民衆軽蔑の思想及び手段を絶滅せしめること。(Ⅱ)民衆に社会的啓蒙をうながすこと。(Ⅲ)経済的手段を独占してゐる者への啓蒙。その搾取心理の排

明けましておめでとうございます。え〜今年もばかばかしい解説でご機嫌を伺います。 この初期ノートの部分は、後年の吉本の言葉でいえば、日本の社会は産業構造としては近代資本主義から現代の消費資本主義へと移行しているが、大衆の意識や無意識のなかには…

何れにせよ世界における最も貧しき資源の国であるといふ特殊事情への考察が基本的なものとならざるを得ない。(中世との共在)

日本が世界で最も貧しい資源の国なのかどうか知りません。 しかし天然資源も鉱物資源もほとんどないかもしれません。かっては石炭は採れたけど、もうそういう時代ではないし。だから資源は輸入に頼り、それを加工する技術を磨いて経済大国になったんでしょう…