2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「すべての現象を基本的な原理に還元すること。原理的なものはすべて抽象的である」(形而上学ニツイテノNOTE)

この「形而上学ニツイテノNOTE」は、初期ノートの中でもとりわけ抽象度と緊張度が高い章です。この文章は冒頭の断章で比較的分かりやすいですが、ここから抽象的な観念をじりじりと辿る断章が延々と続きます。それは潜水に喩えれば、普通の人間だったら…

「思考は抽象的なものから現実的なものへ向ふ操作である。現実的なものから抽象的なものへ向ふのは直覚である」(形而上学ニツイテノNOTE)

この直覚ということが分かりにくいです。私もよく分かりません。現実的なものから抽象的な原理に向かうものだって思考を呼んだっていい気がします。しかし言いたいことはこうなんじゃないでしょうか。 思考というものは概念を必要とすると考えます。概念操作…

「何故ならば…。僕はこの何故ならばという言葉が好きになった。何故ならば…。知らぬうちに僕はあの眼に視えない僕の敵たちと論争しているやうだ」(エリアンの感想の断片)

この敗戦直後の若い吉本の予想の通り、吉本の人生は争い、戦いの人生になっていきました。敗戦までは軍国少年として戦争の後方に加わっていたわけですから、生涯ずっと戦っていると言ってもいいわけです。吉本の物書きとしての魅力の大きな部分は、この闘う…

「人間は、権威に向かって求心的である」(原理の照明)

観念を産む宿命にあるのが人間であるなら、観念の宿命は無限に拡大していこうとすることです。無限に拡大していこうとする観念は、無限に拡大した自己、すなわち観念自体の究極の像をうすらぼんやりと描きます。それが権威というものの背光ではないでしょう…

「僕は睡眠薬を口に含んで床に就いたが眠れなかった。効能書きには、それで眠れなかったら更に飲んでも無駄だと書かれてあった」(エリアンの感想の断片)

このあたりの初期ノートは、おそらく敗戦後間もない時期に書かれていると思います。敗戦ということを感情で受けとめることができず、思想としても構えを作れない苦しくて恥ずかしくてヤケクソで日を送っていた時期のノートでしょう。 それで不眠になって睡眠…

「絶望!孤独!いやそれよりも、現在の理由もなく痛む頭脳。何ひとつ感じられない憂うつな精神。そのほうがつらい」(風の章)

誰でもそうですが、物書きの初期というのは身体と観念と環境とが渦巻きのように混沌としていて、うざったいと言えばうざったいですが、その物書きの資質のあらゆる原型が込められているという意味では魅力のあるものです。この初期ノートの部分も吉本の極め…