2015-02-01から1ヶ月間の記事一覧

またも一日の終りに熱くほてつた頭脳と痛む神経とが残つてゐる。僕は明日も生きることを強ひられてゐる。強ひられてゐるといふことの外に何の言葉も用ひることは出来ない。(〈夕ぐれと夜の言葉〉)

ここには吉本の思想の重要な要素である「受動性」というものと、その核となる体験が述べられていると思います。戦争中に吉本の内面を充たしていた戦争肯定に至る世界認識と、徹底抗戦とか戦争死の覚悟といった内面の覚悟性が敗戦の現実によってこなごなに砕…

何故ならば、僕は持つてゐる一片の意志も生きようとする欲求のなかに費さなかつたから。又強ひられてゐるといふ感じの外、何の由因を見つけ出すことは出来なかつたから。僕は何を言うべきだらう。且て愛してゐたものは幻影と残渣とにわかれて消散してしまつた。熱心に聴いてゐた耳は、もう何も聴かなくなつて、すべてが静寂そのもののやうだ。体内には微かな血液の循環が感じられてゐる。僕は何を言ふべきだらう。(〈夕ぐれと夜の言葉〉)

これを書いている若い吉本はかなり「うつっぽい」ですが、病的とはいえません。なぜならば過去は辛く、未来はまったく見えない状態ですが、過去から現在へそして未来へという了解性は抑圧されながらも生きていて、それが吉本を苦しめていることが分かるから…

〈人々がやつとの思ひで手に入れた自由は屢々誇りを持つた人間にとつては、何とも我慢の成らないやうな奴隷状態に、云ひかへれば愚昩にして残虐な愚民群の支配に転化したのであつた。(ランケ)〉このランケの口振り。我慢のならない出来具合である。こんなことを言つたとてそれが人間の幸福に何を加へるといふのか。(エリアンの感想の断片)

これは要するに「愚民政治」という言葉がありますが、一般の民衆に権力を持たせると「愚昧にして残虐な」支配を行ってしまうというランケの考察に吉本が反発しているのだと思います。ランケのいうことを普遍化すれば結局一般大衆というものが愚昧にして残虐…

僕は少数者の支配による圧政に抗して生起した大革命を、暴徒を信ずる。その動機の現実性を信ずる。誰が結果のために行動するだらうか。実践はいつも動機だけに関与される。そして人間史は、ランケの言ふやうに又ヘーゲルのいふように理念なるものによつて動かされたのではない。それは無数の動機の、しかも悲哀ある動機の連続である。(エリアンの感想の断片)

その動機の現実性を信じるという言葉が心を撃ちます。一般大衆の現実というところを信じるということです。そしてやってみなければわからない実践というものの現実性を指摘していると思います。では大衆の現実というものは理念の眼から視えるのか。視えてい…