2012-01-01から1ヶ月間の記事一覧

老人は枯れた声で言つた。〈お前のやうな年齢(としごろ)で感じてゐたことは、やがてわしらの年齢(としごろ)になると透明な屑になつて空のなかほどに浮んでゐたりする。やがてお前はそれを視るようになるよ。そんなときどんな風に感じるのかつて言ふのかね。みんな枯れてしまふのさ。世界はすべて枯れてしまふ。〉(〈少年と少女へのノート〉)

これは前に解説したように吉本の自伝的なフィクションである「エリアンの手記と詩」の世界のなかで書いている文章です。老人はおそらくオト先生というキャラクターで、20代の吉本はここでオト先生の言葉を借りて「老い」について空想しているわけです。文…

空虚な精神はその根源を生理のうへに持つ。だが、それにもかかはらず、精神はその空虚の否定を精神によつて行はねばならないだらう。(原理の照明)

「名探偵モンク」という海外のテレビドラマを知っていますか。これは強迫神経症を病んでいる元刑事が探偵となって難事件を解決するドラマです。それから「幼獣マメシバ」とその続編の「マメシバ一郎」という日本のテレビドラマを知ってますか。これはひきこ…

僕らは離脱しようと欲するけれど、決して離脱することは出来ない。唯それは内的な限界を拡大し、多様にするだけである。(断想Ⅱ)

これは何から離脱しようと欲しているのか、この文章からは分かりませんが、この前の断章を読むと「決定的な宿命」なるものからの離脱ということだと分かります。決定的だから宿命なわけですが、この宿命が何を指しているのかは明瞭ではありません。ただ吉本…

僕は唯欲するがままに為すにすぎないけれど、欲するがままといふことは次第に一つの目的を形成するに至り、それは同時に苦痛をも伴ふに至る。即ち一つの労働に転化される。労働の感じを伴はないものは天才の作品を除いては決して存在しない。(断想Ⅱ)

労働の感じというのは、表現においては日常性が表現に込められていく過程です。では天才はなぜ労働の感じを伴わないのか。それは日常が始まる以前の源泉から表現を行いうるからじゃないかと思います。誰も知らない大洋というものを推察させてくれる存在はひ…