2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

一日の出来事の浮沈に一喜一憂する父親が還つてくる。次に経済史や社会思想史を熟知してゐる息子が戻つてくる。息子の願ひはただ暗い自負のうちに秘されてゐよう。彼はすべて貧しきものの存在する機構を知つてゐるのだ。息子は放棄の思想を血肉化しようとしてゐる。(夕ぐれと夜との独白)

この息子というのは吉本自身でしょう。またこうした息子、娘というのは世の中にいくらもいるわけです。そして社会のカラクリに目覚めた息子や娘は支配権力と戦いたいと思う。そして実際に政治活動をして逮捕される者も出てきます。かって中野重治という文学…

あらゆる選択のうちで死は、最も確実であり、誰もがそれをとつておきのものとします。(〈少年と少女へのノート〉)

死に誘われ、たえず死にたいと考える。そういう人はたしかにいます。なぜ限られた人生を自然に迎える死を待たずに、死に誘われるんでしょうか。そして死から逃れ、生きようと思うにはどうしたらいいのでしょうか。私はその自分なりの答えをもっています。し…

僕は形骸のみの人間になつてゐる。肉体も精神も痩せてしまつた。(原理の照明)

漫画家の西原理恵子は歯に絹を着せずに真実をずけずけという面白い人です。ついでに言うと西原の弟分のような文筆家のゲッツ板谷という人は私は平成の太宰治だと思っています。ホントかよと思う人は文庫本で出ているゲッツ板谷のエッセイを読んでみてくださ…

〈さらばカイザルの物はカイザルに、神の物は神に納めよ〉(マタイ伝二二の二二)。これは精神の受授の一般形式を物語つてゐる。そして人間のものは人間に納めよと言ふことを象徴してゐる。(夕ぐれと夜との独白)

政治支配と自然(神)とそして大衆。吉本は自分の責任を取る重さに耐えるために、責任のよってきたる基盤を解明しようとしています。政治支配が与える社会苦や戦争死の責任は政治支配者や支配イデオロギーの鼓吹者たちに叩き返さなければない。吉本の責任の…