2013-04-27から1日間の記事一覧

(前略)姉が心臓の疲弊で苦しんでゐた頃、僕は二、三日前読んだマルセル・プルーストの一節を心の中で繰返したりしてゐた、何といふ不様なことだらう、僕には幸福とも不幸とも思へぬ平凡な家庭を、姉は死ぬ程恋しがつてゐた、何といふ相違だらう、やがて姉の死と同時に、あれ程深い印象を刻んでゐたプルースト「失なひし時を索めて」のカデンツアが僕の心から遠退いていつた。姉の死が代つて僕を領したからだ、人は語り得る部分よりも沈黙のうちに守つてゐる部分を遥かに多く蔵つてゐる、殊に他人より一層そのやうであつた姉のために、僕がこれだけ

吉本のお姉さんは敗戦後の食い物のない時代に肺結核で亡くなるんですね。お姉さんは短歌を作るのが好きだったわけです。初期ノートのあとがきにありますが、お姉さんが参加していた短歌誌の主催者の人に、当時の吉本の勘繰りでは、お姉さんは秘かに好意を寄…

再び誘惑のこえを聴かう。(夕ぐれと夜との独白)

これだけでは何の誘惑だかわからないわけですが、前後の文脈から判断するとおそらく死の誘惑なんだと思います。死にたいという誘惑がある人は確かにいます。私にはそういう誘惑がないからわからないんですが、その誘惑に誘われて実際に死んでしまう人もいま…