2011-08-01から1ヶ月間の記事一覧

叙情とは存在の空孔に充たされる液態だ。どうしてそれが必要だらうか。我々が現実に密着すれば、この空孔はそのまま乾燥する。(下町)

叙情というのは感情とか感慨とか詠嘆というような(ああ!)というようなアレですね。それが現実に密着すれば必要なくなるかどうかは疑問です。ただ現実意識が欠如していることが叙情に転化されることが許せないという若き吉本の怒りがあるんだと思います。 …

正しく驚くべき泥濘の道がある。それは僕らの占有せられた現実だ。僕の精神は占有せられることを耻とする。限りなく倦まざらんがために。(原理の照明)

支配秩序と支配秩序に飼いならされた感性の秩序が占有せられた現実です。政治を支配し金融を支配し経済を支配し、テレビや新聞を通じて感性の秩序を飼いならす。そして私たちの内面も占有されていく。それは恥だと吉本は言っているわけです。生きることが限…

問い「(3・11、震災から5ヵ月が経って)原発事故によって、原発廃絶論が出ているが」吉本「原発をやめる、という選択は考えられない。原子力の問題は、原理的には人間の皮膚や硬い物質を透過する放射線を産業利用するまでに科学が発達を遂げてしまった、という点にある。燃料としては桁違いにコストが安いが、そのかわり、使い方を間違えると大変な危険を伴なう。しかし、発達してしまった科学を、後戻りさせるという選択はあり得ない。それは人類をやめろ、というのと同じです。だから、危険な場所まで科学を発達させたことを人類の知恵が生み

福島原発事故が起こり、まだ生々しくその恐怖と被災地の人々の悲惨への思いが心を占めていて、その結果世界的に原発廃絶の論調が高まって実際にドイツのように全廃を決定する国家も生まれている、そういう現状で吉本は上記のように原発廃絶論を批判している…

問い「(吉本の『今度の震災の後は、何か暗くて、このまま沈没して無くなってしまうんではないか、という気がした。元気もないし、もうやりようがないよ、という人が黙々と歩いている感じです。東北の沿岸の被害や原子力発電所の事故の影響も合わせれば、打撃から回復するのは容易ではない』を受けて)、明るさは戻るか?」吉本「全体状況が暗くても、それと自分を分けて考えることも必要だ。僕も自分なりに満足できるものを書くとか、飼い猫に好かれるといった小さな満足感で、押し寄せる絶望感をやり過している。公の問題に押しつぶされず、それぞ

こうした考え方の正当性は、なにより今回の被災者の人々が体験されていることだと感じる。悲惨な状況から立ち上がるということは残された身近な世界を大切にするということなのだと思う。いつのまにか私たちは自分を含む人々の生活や社会を、それを上から管…