2013-06-01から1ヶ月間の記事一覧

宮沢賢治の作品には絶えずこの悲しみが付きまとつてゐますが果してこれはどんな所から生れて来た要素なのでせうか 私は思ふに二つの主たる理由があると考へます その第一は彼の生れ持つた性格なのです 彼には一面には脆くくづれてしまふ様な処があり、醜いもの悪意あるもの、その様なものをさけるやうな消極的な処がありました そして清純なるもの善意なるものを探究してその醜さ悪意のわりなさを、一歩高い所に立つて眺めやうとしたのです(宮沢賢治童話論)

宮沢賢治は生涯経済的にちゃんと自立できなかった人で、親の仕送りに頼って暮らすことから抜けられなかった人らしいです。だからそういう面から見ればダメな人だともいえます。一人前の社会人になりきれなかった弱さをもった人といえるでしょう。宮沢賢治に…

この性格は或る程度まで、彼の一生を通じて絶えなかつたものの一つでした けれど後になつては、この消極性の中に、何とも言はれぬ積極性が現はれる様になりました このやうな表現は相矛盾するやうに考へられますが決してそうではありません そして幾度か作品の中の人物の性格となつては現はれてゐます うちにはぷすぷすと燃えたぎつてゐる激しさが静かな色に覆はれてゐるのです それは容易に爆発するものではないでせうけれど容易に朽ち果てるものではないのです(宮沢賢治童話論)

吉本は自分の性格をなにかのアンケートに答えて「受動的戦闘性」と書いていました。これはこの文章の「この消極性の中に、何とも言われぬ積極性が現れる」ということと共通しているように私は思います。受動性というのは受け身ということで、受け身であると…

彼(宮沢賢治)が童話と言ふものに生命を打ち込んだ理由は実に明らかであると思ひます 斯様にして創られた彼の作品に於て私達が忘れてはならない事がたつた一つあります それは彼の作品には「生命の悲しみ」とも言ふべき一つの悲哀を帯びた調子が一貫して流れてゐる事なのです (宮沢賢治童話論)

吉本にとって宮沢賢治は大きな存在で、正面からぶつかった宮沢賢治論は膨大なテーマを追求しています。その全体はとてもここで書ききれないわけですが、このノートの部分に触れるようなところを少し解説してみます。「悲劇の解読」(1979筑摩書房)のな…

それは実に大きな悲しみであり、私達の魂を奥底からゆさぶつてさらひ去つて行くやうなものなのです 何か自然の悲しみと言ひませうか、山川草木の悲しみと言ひませうか、その様な確かに宇宙の創造的な意志に付きまとふやうな本質的なものなのです (宮沢賢治童話論)

その悲しみはひとつには魂の奥底からゆさぶるようなものだということであり、もうひとつはそれが「わけがわからないところにわけのわからいことろ自体としてある」ということなんだと思います。つまり二重になった悲しみです。そこで吉本は少なくともわけが…