2010-07-01から1ヶ月間の記事一覧

愛は酔ふことが出来るものですが、憎悪は人を覚まします。(〈少年と少女へのノート〉)

この愛とか憎悪とかは誰に対して言っているのか。恋人とか友人のような一対一の関係について言っているのか。あるいは社会的な関係で政府とか政治集団について言っているのか。おそらく社会的な関係における愛とか憎悪とかを言っていると思います。 初期ノー…

人間は自らに出会ったとき同時に時間といふものの構造に出会ふ。(原理の照明)

時間というのは分かりやすくいえば、自分のなかの因果です。なんで俺はこうなんだろう。なんであたしはこうなっちゃうんだろう。その因果だと思います。その因果の奥底には意識の発生以前の胎内や幼児期の時間があります。自らに出会うというのは、その奥底…

夢は破れる。あたかも一角からくづれてゆく意識なのだが、くづれてゆく部分ごとに悔恨に変じていつた。(夕ぐれと夜との独白)

この文章からはどんな夢がどのように破れたかは分かりませんが、いずれにせよ痛切な体験によって起こった自分の心の推移を、化学実験の報告文のような観察力で書くところに吉本の特長があらわれていると思います。痛切さという血の通ったものと、普遍性に至…

死はこれを精神と肉体とにわけることは出来ない。それは自覚の普遍的な終局であるのだから。僕がそれに何かを加へることが出来るとするならば、すべてのひとにとつてそれが無であるとき、僕にとつてそれが自然であると考へられるといふことだけだらう。(夕ぐれと夜との独白)

自然という概念に人類史のすべてを叩き込み還元してしまおうとするマルクスの思想の徹底した姿、というのが吉本のマルクス理解の根底だと思います。それは親鸞の思想の中に吉本が見たものでもあります。それは吉本が自らの孤独な時間の中で開こうとした最も…