2009-10-01から1ヶ月間の記事一覧

「アジアの最も必要とするのは文化史的風土の発展といふことではなく、社会構造的な風土の発展といふことである。そして最も現実的な課題は、ヨオロッパの帝国主義的な経営の歴史を消滅せしめるといふことである。これが行なはれた後に、初めて、社会構造の淘汰が自律的な課題として現実化されるのである。」(断想Ⅱ)

これはアジアという地域の特長は社会構造を上から支配者が与えて、それを逆らわずに受け入れて、黙々と従い、社会構造がいいのか悪いのかさして関心がないということを指摘しているのだと思います。そう言われると思い当たることがあるでしょう。私はおおい…

「アジア精神の将来は、決して悲観すべきものとは思はれない。併(しか)し、現実的な抑圧がその光輝を剥奪(はくだつ)してゐるのである。」(断想Ⅱ)

アジア精神という言葉に戦争期の思想的な影響が出ていると思います。アジアの思想の一番怖ろしいところはアジア思想の一番苦手な共同体の思想の中にあります。共同体の思想、つまり共同の幻想の領域に個人と家族というものを引きづり込んでしまうところです…

「意味ない言葉こそ本能的といふことが出来る。」(風の章)

これは若い頃の吉本の言葉であって、その後の吉本であれば言葉についてこういう言い方はしないと思います。つまり本能的という言い方はしない。吉本は後年の言語論において言葉を意味を指し示す指示表出という概念と、価値を表す自己表出という概念の織り成…

「文学から僕は倫理を学んだ。恐らくは作者の意図に反して。だが、恐らくは作者の苦しみに即して。」(風の章)

文学者でもミュージシャンでも漫画家でも、あるいは身近な家族、友人でもいいですが、本当に気に入って追いかけたり深くつきあっているとふっと分かることがあるでしょう。それはその相手自身ももしかしたら気がついていないことだったりするでしょう。それ…

「僕が何よりもこの著書について驚嘆を禁じ得なかったことは、それが感性の高次な秩序を要求するといふことであった。僕は、この点についての多くの信者たちの悪循環をよく知ってゐるし、彼等に悪循環をさえ要求するような見事なマルクスの思想も知ってゐた。唯、僕が何故その悪循環を経験しなかったかと言へば、それは、僕の全く対蹠的(注・たいしょてき。正反対の位置関係にあること)な部門についての少しの修練があったからである」(カール・マルクス小影)

感性の高次な秩序を要求するというのはどういうことか。まず、資本論に表現されているマルクスの思想は何百年、何世紀というような時間の幅の上に成り立っているわけです。そういう大きな時間の中で自分のいる社会を考えるということ自体が感性を変えるでし…

「若し、現象を論理的に解明しようと欲するならば、この基本反応(注・動因を原理的なものに還元すること。帰納法のこと)に、若干の偶然的要素を加へて、各人がなすべきところのものであると思ふ。資本論は、正しくこのやうな抽象的といふことの持たねばならぬ重要さを具へてゐたと言ふことが出来る」(カール・マルクス小影)

この文章は前々回の解説でも引用したので同じことを繰り返す感じですが、要するに原理的な考察を行うときには具体的な現実の現象の分析から始めるわけです。マルクスも大英図書館にこもって膨大な歴史資料の山から現象の背後にある原理的な法則を発見しよう…