2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

いや僕はしばらく非情のことに逃れよう。〈秩序とは搾取の定立のことである。〉世には搾取といふ言葉を好まない人々がゐる。悲しいことにそれらの人々はこの純粋な政治経済学上の概念に対して、神を感じてゐるのだ。いや人間をと言ふべきだらうか。やがて機構としての搾取は排滅し、人類はほんとうの歴史に入るだらう。(夕ぐれと夜との独白)

搾取というのは生産手段を私有している者つまり資本家が労働者を雇い働かせ、労働者が生産した価値の中から労働者が生活できる、つまり再生産できるかぎりの価値を労賃として支払い、残りの価値は資本家の自由にすることをいうんだと思います。もっと面倒な…

そうして僕たちは人類がまだ全く未開のうちにあることを納得する必要がある。しばしば自己の生涯と比較してゐる人々が、人類史があたかも老成期にあるかのやうに錯覚してゐる。この点についてのオツペンハイマーの注意を書きとめておこう。〈正系主義が支配と搾取とを、人種学的および神学的論拠を以て理論づけることは、どこでも同じである〉そうだ。そして現在でもといふ言葉をつけ加へよう。(夕ぐれと夜との独白)

人の生涯というものと思想が取り扱う人類史の長さというものを釣り合わせようという錯覚から若い吉本は早くも逃れているように思います。この老成した感性はどこから来るのか。たぶん吉本は自分の内面の井戸のようなもののなかに、歴史の現在だけでは説明の…

僕らを真に束縛するものは、現実そのものであるといふ処まで行つて、あらゆる行為は自由のための、自由の表現となるだらう。(原理の照明)

自由は精神の由緒正しい根源だという若い吉本の発想は、やがて人間の精神というものの根源には生命体という有機体が無機的な環界に対して抱く異和があり、同時にその異和を打ち消したい衝動があり、その結果有機体にも無機的な自然にも還元できない領域をい…

僕もまた長い間手掛けた精神の生産物を、何日かは嬉々として市場へ販りにゆかう。そうすることが、誰かの必要であるならば。(原理の照明)

吉本は書いたものを売るということに醒めた認識をもっています。売文という稼業を旅芸人にたとえています。それはふつうの生活人の下の境涯だという認識です。文学とか芸術という架空の職業がふつうの生活人に対して何かという問題意識は吉本に言わせれば、…