2016-08-01から1ヶ月間の記事一覧

現在僕の周囲を覆つてゐる形ない暗黒が、若し僕の自由を覆つてゐるものであるとするならば、それは歴史的な現実が、形而上学的乃至は心理学的な形象を以て現はれてゐるものであると考へざるを得ない。僕がそれを脱出することは、現実を変革する実践によつて行はれるであらうが、それは同時に僕の生理を変革することに同型である。(原理の照明)

「形ない暗黒」とか、そういう文学的な表現にとらわれないで考えれば、自分の実生活、家族とか学校とか会社とか地域とかの自分が生きている小さな生活領域に起こっていることを、歴史的現実という普遍的なものに結びつけて吉本は考えているということです。…

真空の時期といふものが生涯のうちにあるとするなら、それは僕にとつて現在である。(原理の照明)

真空の時期というのは、現実に向かうことができずに観念のなかに閉じこもっている時期ということなんじゃないでしょうか。「ひきこもり」についての後年の吉本の考えに沿っていえば、それは吉本の「ひきこもり」の時期だと思います。吉本は「ひきこもり」を…

〈わしの話は誰も聴くものがゐない。畏ろしさを思ふのかも知れない。〉 (〈老人と少女のゐた説話〉の構想Ⅰ)

これは吉本が若いころに書いた散文詩「エリアンの手記と詩」の構想を練っている時の文章なんだと思いますこの詩は主人公のエリアンに吉本自身が仮託された物語になっています。どこの国とも知れない国籍不明の舞台を設定した、吉本の数少ないフィクションで…

僕は夕ぐれと共にひとつの歌を沈める。(〈夕ぐれと夜の言葉〉)

よくわかりませんが、吉本がいっている「歌」というのは、吉本の心になかだけに秘められた「肯定」のイメージなんだと思います。それは現実のなかで歌われることができないんでしょう。しかし「歌」がないわけではない。それは「25時」のなかで、誰に伝わる…