2011-04-01から1ヶ月間の記事一覧

夜になると雨は止んだ!たつた一本しかない煙草に火を点ずると、其処には言ひようもない憩ひが感ぜられた。今夜僕は疲れてゐる。やがてすべては時の前に空しい残骸を晒すだらう。僕にはそれが別に悲しいとも何とも思はれない。僕にひとつの己れを賭ける仕事があれば、それだけは炬火のやうに燃えて燼きないことを願ふだらうに。(〈少年と少女へのノート〉)

この文章は読んだ通りのものだから特に解説はいらないと思います。ただここで言われている「ひとつの己を賭ける仕事」という仕事の意味が生活収入を支える生業(なりわい)よりも広い意味で使われていることを指摘すればいいだけだと思います。吉本にとって…

空想は捨てねばならぬ。だがこれは難かしいことだ。僕らが自分の空想を自覚するのは、将に自分が空想のため死に瀕してゐる瞬間においてである。真に空想してゐる者は少い。それはとりもなほさず真に空想から脱することの如何に難いかを暗示してゐる。(〈夕ぐれと夜との言葉〉)

真に空想している者という時に、戦争を心から肯定し天皇の神聖を心から信じ、それを断ち切られた吉本自身を含めていると思います。時代的な限界のなかで生きるということはすべての人間の宿命ですが、それはその時代の意識がどこかで空想を含んでいるという…

悲しみは洗ひ、嫌悪はたまる。〈三月*日〉(夕ぐれと夜との独白)

この言葉は分かりやすいので解説は必要ないように思います。また自分なりに自分に関心のある事柄に当てはめて使うこともできます。どうしようもない必然的な事柄については悲しみが湧いて、悲しみは感情を浄化するように感じられます。しかし判断の誤りとか…

現実は人為的に(意識的に)、又は必然的に(無意識的に)歪められてゐる。(形而上学ニツイテノNОTE)

意識的な歪みは意識的な努力で正すことができても、無意識的な歪みを正すことはとても困難だということでしょう。わたしが無意識の歪みをもっているとして、もっているでしょうが、それをわたしはどうして察知できるのか。たぶんそれを知りたいということは…