2014-07-01から1ヶ月間の記事一覧

すべての「個」にとって、黄金時代が少年期から青年期の初葉にあるように、わたしの黄金時代は、戦争と、それを前後にはさんだ僅かの時期にあつた。しかし、戦争の終結は、強引にこの黄金時代に亀裂をつくつたということができる。(過去についての自註)

ここで吉本が黄金時代といっているのは、アドレッセンスつまり思春期のことだと思います。それは少年期から青年期の初葉だということです。徳永英明の「壊れかけのラジオ」のように「♪思春期に少年から大人に変わる〜」という時期です。そのアドレッセンスに…

印象法をつかつて描写しなければならないが、わたしの、「個」の黄金時代を象徴するのはひとりの私塾の教師、無名の教師である。かれは(と呼んでいいであろう。その教師が戦災死した年齢は、ほぼ、わたしの現在の年齢またはそれ以下である)、国語から数学、外国語にいたる万般について、ほぼ中学校(現在の高校)の高学年にいたるまでの全過程をわたしたちに教えることができ、野球から水泳にいたる全スポーツについて教えることができた。いまでは理解できそうだが、かれの万能は、何よりも才能の問題ではなく、自己の生涯をいかにして埋葬するこ

この私塾の教師というのは以前にも解説しましたが、今氏乙冶さんという人です。この今氏さんは終戦の昭和20年に東京の空襲のなかで亡くなったそうです。敗戦は吉本にとって、思春期に最大の影響を与えられた私塾の教師の死も意味していたことになります。ま…

たれが おまへに 来い と言ふ た おとよ が 死んで しげる が 生れ 木の実が からから(冬)

これは吉本が東京府立化学工業学校に在学中に「和楽路」という学内の文芸同人誌のようなものに書いた詩です。卒業記念号に載っていたそうですから17歳くらいの作品でしょう。これが詩の全文という短い詩です。特徴は韻文だということです。韻をふんで書かれ…

うら盆で 灯籠流せ 灯籠流せ 舟の下で 溺れた子が 抱いて帰る(うら盆)

とうろうながせ とうろうながせ この繰り返しがリズムです。リズムが言葉をとおして「大洋」を揺り動かします。それが言語の起源だから。そして吉本の詩では川の底で溺れた子のイメージが登場します。リズムが生み出す「大洋」の底に「溺れた子」がいるとい…