2009-12-01から1ヶ月間の記事一覧

「僕は後悔といふ魔物、その親族である宗教的ざんげを嫌ふ。且てキリスト教を堕落せしめた要因の一つは、キリスト・イエスにおける自己嫌悪としての悔ひ改めを、慰安としてのそれに転落せしめたことである。自立を依存に、独立を隷属にすりかえたことである。」(原理の照明)

後悔というものが嫌いだ、宗教的なざんげは後悔の親族みたいなものだから嫌いだという25歳の吉本の言葉の背景には戦争と敗戦の体験があると思います。当時の日本の戦争に対する一般的な感情が後悔とざんげになっていることへの反発です。 象徴的なのは例えば…

「我が国の現在における最大の不幸は無知蒙昧にして頑固なる政治家によつて行政及び立法府が支配されてゐるといふことである。しかも彼らは旧時代的帝国主義者によつて庇護されてゐる。」(原理の照明)

わが国の現在と言っているのは昭和25年頃のことです。まだマッカーサーのGHQによる占領下にあった時代です。首相は吉田茂。旧時代的帝国主義者というのは、戦争中に日本帝国を支配していた層が残存していて、それが政府の後ろ盾になっているという意味…

「僕に対する批評(悪評)はいつも僕のゐないところでなされる。僕はそれをよく知ってゐる。やがて僕は、それ(悪評)を僕の前に呼びよせるだらう。そこしれない愛情をもつて。そのときこそ僕に対する憎み手であった者たちも一緒に来るがいい。僕は、何の変化もなかったようにそれらの者たちに対するだらうから。」(エリアンの感想の断片)

自分が悪口を言われているのではないかとか、自分に不利なことを誰かが画策しているのではないかとかいう不安感は誰もが持つものだと思います。なんとなく嫌われているような気がするとか、バカにされているような気がするとか。そういう不安感を自分でコン…

「友よ。ではあの不かつ好な道標の前へ来たら訣れよう。君は右へ僕は左へゆけとそこに書いてある。ただひとつのことをむかへ入れたために僕の精神は何かを喪ったのだらうか。精神は自衛の本能をもってゐて、僕はネガティヴの思考と行為とを注意深く選択してゐる。」(夕ぐれと夜との独白)

これはただひとつのことって何?ってことですね。こういう書き方って文学的ですよね。もっとぶっちゃけてザックリ書いてほしいですね。しかし書きたくはないわけでしょう。なぜかというと通りいっぺんの言い方でいうと誤解を生じる微妙なことだからです。で…