2015-02-28から1日間の記事一覧

またも一日の終りに熱くほてつた頭脳と痛む神経とが残つてゐる。僕は明日も生きることを強ひられてゐる。強ひられてゐるといふことの外に何の言葉も用ひることは出来ない。(〈夕ぐれと夜の言葉〉)

ここには吉本の思想の重要な要素である「受動性」というものと、その核となる体験が述べられていると思います。戦争中に吉本の内面を充たしていた戦争肯定に至る世界認識と、徹底抗戦とか戦争死の覚悟といった内面の覚悟性が敗戦の現実によってこなごなに砕…

何故ならば、僕は持つてゐる一片の意志も生きようとする欲求のなかに費さなかつたから。又強ひられてゐるといふ感じの外、何の由因を見つけ出すことは出来なかつたから。僕は何を言うべきだらう。且て愛してゐたものは幻影と残渣とにわかれて消散してしまつた。熱心に聴いてゐた耳は、もう何も聴かなくなつて、すべてが静寂そのもののやうだ。体内には微かな血液の循環が感じられてゐる。僕は何を言ふべきだらう。(〈夕ぐれと夜の言葉〉)

これを書いている若い吉本はかなり「うつっぽい」ですが、病的とはいえません。なぜならば過去は辛く、未来はまったく見えない状態ですが、過去から現在へそして未来へという了解性は抑圧されながらも生きていて、それが吉本を苦しめていることが分かるから…