我々は虚無において神への上昇も現実への下降も許されない。(〈虚無について〉)

吉本にとっての、というか日本人にとっての戦時中の神は天皇だったわけですが、その天皇へ戦後に再び上昇する、つまり信仰することはできなかったわけです。現実に下降しようとしても、その現実に吉本が拒絶するもの、否定するものがうごめいていれば、現実のなかに埋没して生きることもかなわない。そんな宙ぶらりんな精神状態が虚無なんだと思います。だから吉本の虚無には鋭敏な感覚と思考力がつまっています。

よくわからない、今はまだ解明できないが、それが否定されるべきものだということだけはわかる、ということでしょう。それが虚無なら、くっきりと解明されるまでの考え続ける孤独と苦難に耐えることが虚無なんで、吉本はその虚無に耐えて多くの事柄を解明していったといえるわけです。



おまけ

ありません。