もの判りの悪い僕の魂のために、ひそかに思考の道をつけてやること。(〈夕ぐれと夜の言葉〉)

これは解説にしようがないですね。もの判りが悪いというのは、どんな音楽にも踊れないという比喩にあるように否定に囚われた魂のことでしょう。それをなんとかするには思考すしかない。わかるということが否定せざるをえない現実を見渡すことのできる唯一の方法だからです。


おまけ

「外側からは病気というレッテルで済みます。そう呼ぶのがいちばん簡単ですから。こっちも面倒になって医師のいうとおり薬を飲んだほうがいいといってしまうけれども、その人の抱えている内面の問題には手が届いていない。だからその人の問題は、そこで残されてしまうんです。それを異常として翻訳し、異常として理解しても、その人の世界観の問題は救われない。それでどうなることでもない。その人にも解っている異常かもしれないし、しかしどうにもならない状態に陥っているかもしれません。その人の精神体験の全貌は、異常とか正常の問題ではなくて、何かがその人に与えているバランスのような働きだとおもうのです。それが救いなのか絶望なのか判りませんが、その問題は拭い去れないです」

                   「死の位相学」昭和60年 潮出版社