2015-01-24から1日間の記事一覧

そして秘やかな夜が来た。勿論、三月の外気は少し荒いけれど、それはあたかも精神の外の出来事のやうだ。夜は精神の内側を滑つてくる。甍(いらか)のつづき。白いモルタルの色。あゝ病ひははやく癒えないだらうか。僕は言ひきかせる。〈精神を仕事に従はせること〉。(夕ぐれと夜との独白)

精神が外界と遊離して、現実と離れてただよっていく感覚が描かれています。敗戦の与えた衝撃が若い吉本にそれを強いているのだと思います。これは病ひだという認知が吉本のなかに生きています。つまり病ひに抵抗できています。そこで精神を現実につなぎとめ…

この世は仕事より高級なことも、仕事より低級なことも、そして複雑ささへ、それ以上でも以下でもないのだから。(夕ぐれと夜との独白)

これは仕事というのを「現実との関係」というふうに読みかえればいいような気がします。現実と関係し、現実を分析し、現実と格闘する。それ以上に高級なことがどこか「いと高きところ」にあると考えない。もっと高度で複雑で知的なことがあるとも考えない。…