もう夕暮だ。一日のうち風はしづまり、又吹き、ふたたびしづまらうとしてゐる。そして一日のうち曇り又晴れまがみえ、ひわ色の斜光が充ちてゐる。僕は誰よりも寂かにひそんでゐる。不安を凝固させようとして……。(〈少年と少女へのノート〉)

この吉本の抒情性のなかに登場するのは風と光です。これは「固有時との対話」という詩集にも特徴的な感性だと思います。風と光だけが自然感性としてあるいは抒情として吉本に許容されているのだと思います。あとのものは、すべて批判的な思考の対象と化して吉本を癒す力を失っているのかもしれません。それは追い詰められた抒情のあり方ですが、追い詰められていうだけに強烈で印象的な情景となっていると思います。

おまけです。

天皇および天皇制について」         吉本隆明

まず、きわめてはっきりしていることは、<天皇(制)>が本来的に世襲してきたものは、特殊な宗教的な祭儀だといっていいことである。そしてこの祭儀は天皇位を相続する祭儀にもっとも集してあらわれるといってもよい。