〈さらばカイザルの物はカイザルに、神の物は神に納めよ〉(マタイ伝二二の二二)。これは精神の受授の一般形式を物語つてゐる。そして人間のものは人間に納めよと言ふことを象徴してゐる。(夕ぐれと夜との独白)

政治支配と自然(神)とそして大衆。吉本は自分の責任を取る重さに耐えるために、責任のよってきたる基盤を解明しようとしています。政治支配が与える社会苦や戦争死の責任は政治支配者や支配イデオロギーの鼓吹者たちに叩き返さなければない。吉本の責任の取り方は一大衆、一知識人としての責任の取り方に限定されています。その限定の仕方のなかに優れた社会思想、政治思想が存在します。また限定した責任以上の責任を負わせようとするあらゆる倫理ぶった政治的な非難をはねのける叡智をもっています。私はこの叡智から生きていくのに役立つ知恵を多く学んでずいぶん助かりました。そして責任を負って生きるということのすがすがしさも教えてくれたと思います。


おまけです。

「音楽機械論」より         吉本隆明
僕は自分のことを考えたりすると、日本バンタム級七位くらいだと思うわけですよ。
(中略)そうすると、あんまりそう言う気もないんですけども、自分のモチーフとしては、なんて言うのか、日本バンタム級七位だけれども、だいたい世界バンタム級一位と、いつでも試合出来るというふうにはしておきたい、というモチーフはあるんですよ、そういう場合に。