すべての美や真実や正義を、神へ、それから権威へ、それから卑しい帝王へ与へてきた人類。空しくそれを習慣や儀式のなかに、保存してきたひと達。神権と王権との結合。(夕ぐれと夜との独白(一九五○年Ⅰ))

ここで翻訳口調でちょっと陶酔しながら吉本が言っているのは、日本の天皇制のことです。天皇制であろうが王政であろうが教祖様であろうが、それがおかしいというのはわかっている。しかしそれがなぜ強固な信者によって守られているのか、なぜそれが成立し、どこに崩壊の契機があるのかという問題は、まだ若い吉本の手にあまるという状態でしょう。ここから長い長い天皇制の本質に対する吉本の勉強と分析と表現とのえんえんとした人生が始まります。それはほんとうに偉いと思います。偉い人だった。吉本は偉いと思われることを拒絶するでしょうが、偉いとしかいいようがない。

おまけです。
「ひきこもれ−ひとりの時間をもつということ」(だいわ文庫 2006)

他人とコミュニケートするための言葉ではなく、自分が発して自分自身に価値をもたらそうような言葉。感覚を刺激するのではなく、内臓に響いてくるような言葉―。ひきこもることによって、そんな言葉をもつことができるのではないか、という話です。
ぼくは、言語には二種類あると考えています。
ひとつは他人に何かを伝えるための言語。もうひとつは、伝達ということは二の次で、自分だけに通じればいい言語です。