春の嵐。僕は何も象徴することは出来ないが、その苦痛だけは知つてゐる。(〈春の嵐〉)

春の嵐」というのは思春期のことを言っているんだと思います。思春期に少年から大人に変わる〜という徳永英明の歌のような時期ですね。体が性にめざめるから「嵐」っていうわけですね。小中高の学生のころでしょう。吉本の少年期は、次のおまけに引用した詩がよくあらわしていると思います。これこそは吉本の固有の時間の了解の記念碑といえるものです。

おまけ 
「少年期」     吉本隆明
   くろい地下道へはいってゆくように
少年の日の挿話へはいってゆくと
   語りかけるのは
   見しらぬ駄菓子屋のおかみであり
   三銭の屑せんべいに固着した
   記憶である
   幼友達は盗みをはたらき
   橋のたもとでもの思いにふけり
   びいどろの石あてに賭けた
   明日の約束をわすれた
   世界は異常な掟があり 私刑(リンチ)があり
   仲間はずれにされたものは風にふきさらされた
   かれらはやがて
   団結し 首長をえらび 利権をまもり
   近親をいつくしむ
   仲間はずれにされたものは
   そむき 愛と憎しみをおぼえ
   魂の惨劇にたえる
   みえない関係が
   みえはじめたとき
   かれらは深く訣別している

   不服従こそは少年の日の記憶を解放する
   と語りかけるとき
   ぼくは掟にしたがって追放されるのである