刻々と嵐の予感がやつて来る。どうなるのだらう。街々は勇ましいひと達と、虐げられて生きる元気もなくしたひと達と、アルダンの可笑しな兵士たちとでいつぱいだ。思想家は全くさびしく姿を消した。作家は貧困のため堕落した自嘲を、毎月の雑誌に書きなぐる。誰が、芸術や人間の魂について正しく語れるだらう。もう、ひとりの先達もゐなくなつた。奥深い静寂について、又茫漠たる海について、あきらかに今沈まうとする人類の寂しい夕暮について、あの不気味な地平線の色について誰が僕といつしよに考へてくれるか。(エリアンの感想の断片)

アルダンというのはアメリカのことです。エリアンというのは吉本自身のことで、これは自分自身と自分の現実をもとにした創作の文章です。しかしこの断片に関する限り吉本の敗戦当時の現実への感想そのものと考えていいと思います。この文章の中心は「もう、ひとりの先達もいなくなった」ということだと思います。敗戦後の現実を前にして、もうこの新たなる現実について教えてくれる人はいないということです。それは誰もが考え及ばなかった想定外の現実であり、こうなるであろうと想定していたすべての思想は破産したということです。これは東北関東大震災を目の当たりにしている私たちの現実と同じです。
今週に入ってからテレビの地震原発報道のトーンが微妙に変化したように感じます。ニュースキャスターとか司会者とかの連中の言動にかすかなわざとらしさのようなものを私は感じます。それは地震原発報道自体をどこかへ誘導しようとする作為であって、いわばそれだけ一種の余裕が支配層に生まれた印象があります。現在のテレビや大新聞というマスメディアは、アメリカから流れ下ってくる世界支配の権力に完全に支配されていますから、この変化はアメリカの金融財閥という世界権力の日本の大震災への認識と支配の方法の状況的な変化を反映しているのだと考えます。すると地震発生から原発事故につながる先週までのバタバタとした余裕のない報道のトーンから一種の余裕をもって国民を誘導しようとすると私には感じられる現在のメディアの変化は、日本の原発事故がこれ以上の最悪の世界被害にまでは拡大しないというアメリカによる見切りがあったことを意味しているのではないでしょうか。世界支配は支配下の各国の支配層よりも徹底した確実な情報を得るシステムなしには機能しません。今般の災害についても最も確実で詳細な情報と分析力をもっているのは、管政権や東電ではなくアメリカであると考えます。
これ以上の世界被害に発展しないなら、日本国民の被害には同情など抱いていない世界覇権国にとって次に動くのはこの大災害を逆手にとって日本の社会をいっきに改造することだと思います。小沢と鳩山の民主党が政権をとったときにアメリカの支配層は動揺したと思います。それは民主党が構想している政策がアメリカの完全支配からの相対的な独立を図っていたことが明確だったからです。そこで鳩山首相による沖縄の米軍基地の国外移転という構想をつぶし、管や仙石、岡田、前原、枝野、渡辺といった連中によるクーデターを実行させた。そして小沢をマスメディアと検察による総攻撃で社会的に葬り、手先の政権による日本支配を行おうとしてきたと思います。しかしおそらくはこの管政権というアメリカの傀儡内閣があまりに無能であったために、これ以上国民をあざむいて支持をとり続けることができないし属国としての運営もおぼつかないと見切ったのだと私は思います。悪党にも手先にも子分にもそれなりの器量というものが必要です。管直人一派は有権者を裏切り、小沢や鳩山を裏切ってアメリカの命令に従って政権を簒奪しましたが、彼らには根っこというものがない。かっての自民党の金権議員でさえもっていたほどの一般大衆や地元有力者との利害や心情のきずなというものがないのだと思います。
政府の発表、新聞やテレビの報道というものを公正で客観的な情報と信用して事態に対処できるならどんなによいかと思います。疑うということはとても疲れることです。疑ってそれで真実が分かるならいいですが、分からないことは分からないということを認めれば、判断を保留しながら疑い考えることを継続することになります。その保留された判断、たまった宿題のようなものが脳を苦しめます。脳の苦しみは全身に症状として出ますから、体全体を疲れさせることになるわけです。しかし現在確かにいえることは大新聞、テレビというものを信じるべからずということだと私は考えます。新聞テレビの報道のひとつひとつが事実であったとしても、その取り上げる大小の序列や、取り上げないで報道を止めるという判断の中に国民に対する作為があり、その作為の意図の後ろ側に世界支配の構図が存在します。そこまで見抜くということはたぶん欧米の知識人にとって常識に属することなんだと思います。それを私たちはこれから学ばなければならない。支配されたマスメディアの陰に追いやられた場所に存在する叡智とたたかいがあります。それを知り学ぶということです。しかし私たちにとっては吉本という人生そのものがすでに教えてくれていることでもあります。
戦争直後に日本を実質的に支配したGHQが大胆に日本社会を改造したように、金融爆発による崩壊の秒読みに入った覇権国家アメリカは今般の大災害を契機に日本社会を改造しようとすると思います。それは極度の統制社会を成立させるための準備にあたるのではないでしょうか。アメリカは自身の崩壊に備えて自国と属国群に統制社会を実現させたい。それはアメリカの社会崩壊の過程で起こる反乱や暴動を抑え込み、覇権を生き延びさせようとするあがきであろうと思います。それには大災害やそれが引き起こす原発事故は絶好の好機となりうるものであり、あまりにも支配者にとって都合のよいタイミングでおこったわが国の、あたかも原発を狙ったかのような災害の発生にこれは純然たる自然災害ではないのではないかという疑念は私の頭から消えません。しかし真相はわからないので、自然災害であれ人工的なものであれ、今後畳み込むように起こるであろう大メディアを道具とした統制社会への道筋をよく読みとって、だまされないように注意するしかないと思います。