僕は空虚をもつてゐる。僕の思考はすべてこの空虚を充すことに費されてしまつたのではあるまいか。あの正号から出発してゆく幸せなひとたち。僕は先づ負号を充たしてから出発する。意識における劣等性はつねに斯くの如きものだ。(エリアンの感想の断片)

負号というのは自分自身に対する懐疑なんだと思います。自己矛盾を持たず自己をほがらかに肯定して即座に社会に対する考察や行動に入る幸せなひとたちと異なり、まず自分自身の中に存在する矛盾や自己嫌悪から取り組まなければならない。そういっているのだと思います。
吉本なら現在の災害の状況をどのように考えるでしょうか。きっと政治分析や国際関係というものよりも、徹頭徹尾被災を受けた大衆やそれを見守るように取り巻く他の地域の大衆の現状と立場に立って共に考えると思います。それも負号をみたすことです。大きな社会的な動乱が起こると小事として見捨てられる家族や個人の内面の問題があります。私もいつのまにか為政者もどきのように考えてしまう悪癖を捨てて、ひとりの大衆であるという自分と政治経済を考えざるをえない自分との二重性と矛盾に耐えていきたいと思います。

おまけです。

サンデー毎日 アンケート「ホスピス平均入院日数 余命18日どう過ごしますか?」
   吉本隆明
18日間、寝っころんでますね。言いたいことや書きたいことはもっと前に書いてるし、死が近いから急に何かに夢中になるとか、何かを慌ててやるとか、僕はそれほど几帳面じゃないのでやらないでしょう。
(中略)
人類の平均寿命が短くなったってことは僕は聞いたことがない。こりゃあ、減るもんじゃねえんじゃねえか、このままいくと銀河系までいくんじゃないかと思ってるんです。ということは、生と死をことさら区切って考えるってのが意味がない。生きることに気持ちを向けることがいいんではないでしょうか。