そして秘やかな夜が来た。勿論、三月の外気は少し荒いけれど、それはあたかも精神の外の出来事のやうだ。夜は精神の内側を滑つてくる。甍(いらか)のつづき。白いモルタルの色。あゝ病ひははやく癒えないだらうか。僕は言ひきかせる。〈精神を仕事に従はせること。〉(夕ぐれと夜との独白)

あまり考えることに執着すると、五感覚的な把握が遠ざかり離人症に似た状態になります。頭で考えることは周囲の感覚的なことを相対的に離れることの上に成り立つからです。だからそれは息をつめることに生理的になるんでしょう。それを吉本は病といっているわけです。それが病ならにんげんというものは考えるという病の患者です。

おまけです。

悪人正機」(2001)より       吉本隆明

わからないのに、わかっているように言うことを、とにかく警戒すればいいんじゃないか。