この世では仕事より高級なことも、仕事より低級なことも、そして複雑ささへ、それ以上でも以下でもないのだから。(夕ぐれと夜との独白)

ここで言う仕事とは給料をもらう職業という意味よりももっと広い意味を含んでいます。まず最初に何もしたくない、何をしていいかわからない、何をしても虚しいというニヒリズムに捉えられたようなひきこもりの時間があり、いうにいわれない内面の格闘の結果、そこからよろよろと這い出して、金になろうとならなかろうと人に認められようと無視されようと自分の気持ちを注ぎ込めるなにかをやっとみつける。それを仕事といっているわけです。そういう仕事に自分を注ぎ込むならば、それは自分であるわけだから、自分以上でも以下でもないということだと思います。吉本の職業的な文筆家としての業績の背後には、こうした意味での果てしない虚空の前に腕を振るような仕事が膨大にあると思います。初期ノートもそうした仕事のひとつです。

おまけです。

「ぼくが原則としたことは、自分の雑誌に、自分にとって大切な、いちばん力のこもった作品を書くということです」
 
                吉本隆明  講演「‘知’の流通」(1995)より