「無数の希望とは、希望について考へるぼくたちの精神的情況それ自体のことである。しかし、ぼくたちは精神の働き自体をどこかへあづけてしまってゐるのだ」(第二詩集の序詞(草案))

これは宿命ということを言いたいのだと思います。あれこれ考えて希望を語ることとそういう主観的な自由さをよそに、人間の観念を根源的に規定している宿命が別個に存在している。しかしそのことまで誰も踏み込もうとしないというようなことじゃないでしょうか。

珍しいところで吉本の短歌をおまけにどうぞ。

短歌四首               吉本隆明

紫陽花のはなのひとつら手にとりて越の立山われゆかんとす

手をとりてつげたきこともありにしを山河も人もわかれてきにけり

しんしんと蒼きが四方にひろごりぬそのはてにこそ懶惰はさびし

さびしけれどその名は言はじ山に来てひかれる峡の雪をし見るも