「夕ぐれが来た。見るかげもない凄惨な心象」(風の章)

自分が命を捨てて闘おうとした国が無条件の降伏をして、その存在のためにすべてを賭けようと思いつめた天皇人間宣言をして、今までの考え方は軍国主義で過ちだったと、戦争中は抵抗もせずに黙っていた連中が大声で演説を始める。そんな社会のあり方が嫌で、その一員である自分も嫌で、あれも嫌、これも嫌、しかしそう自由にこの世からおさらばすることも実際問題できはしない。吉本の人間的な部分はすなわち精神は、現状を否定し超えていきたいのに超える道が見つからない。しかし吉本の若い生命としての全体は、早すぎる死に抵抗し旺盛に生き異性を求め活動することを欲している。そして人間のようにめんどくさくない他の生命は、空を飛び海を泳ぎ地を駆け戦争もせず思考もせず大自然代謝しながら繁茂して、戦争に負けた日も海も山も変わらずに入道雲の下に広がっている。いったいそんな中で俺にどうしろと言うのか。生まれてきたいと頼んだわけでもないのに、なんでわけもわからず苦しまなくちゃならないのか。
今だって基本的には同じじゃないですか。政府は無条件の降伏をしたまんまアメリカに屈従してきたし、その実態を国民に正直に訴えたことは一度もない。やっと最近、どーもそうなんじゃねえかと国民が気づきだした始末でしょう。本当のことを誰も言わないで、裏でやっているんだから、今だって社会のあれも嫌、これも嫌で、インチキな占い師やインチキな脳生理学者やインチキな評論家の面を見るたびに、虫唾が走るし、そんな現状を超えられない自分にも嫌悪が篭って凄惨な心象じゃないですか。特に俺は家庭も凄惨だしね(+o+)
ところでそういう暗さ、自分の心象つまり気持ちが凄惨だと感じるのは誰もがそうだというわけではありません。ある種の人たちが暗いんですよ。戦争が終わろうが、焼け跡に生きようが、生きる苦労は苦労としても心が暗くなるかどうかは別問題なんじゃないでしょうか。佐賀のがばいばあちゃんのように、明るい人は明るいんじゃないでしょうか。だったら必ずしも社会状況のせいで暗いわけでもない。社会状況や自分の生活の行き詰まりは引きがねであって、要するにもともと暗いんだということになるんじゃないか。ではなんでもともと暗いのか。
吉本の考えではそれは根源的には母親との関係の失敗なんです。その関係の失敗のしかたにもいろいろあって、胎児期に遡るものか、乳幼児期にあるものか、それ以降にあるのかという時期の問題が、人間の発達とのからみで決定する部分があります。そして母親がどんな関係の失敗をしたのか。母親と父親とのエロス的な関係や、母親自身の資質や、経済状態や社会不安がどんな母親の物語として子供に刷り込まれたのか。そして子供はどのようにそれを受け取り、自分で自分の病像を作り出したのか。そこにたくさんのまだ充分に解明されていない問題があります。それが充分に解明されることは人間と社会が解明されることです。
ポルソナーレのゼミに集まる人たちはだいたい暗いわけでしょうヾ(- -;)ぶっちゃけたハナシが。頑張って克服したとか、勉強して解明して対象化できた分、暗さに飲み込まれなくなったとか、運動してるとか、呼吸を深くしてるとかそういうことをしてるわけでしょうけど、そういう努力してること自体暗さと戦ってる証拠ですからね。他人の暗さをなんとかしようというのがカウンセリングでしょうけども、それは自分も暗いということとセットじゃないかと思います。相手の目を見るのが辛くて伏目になってしまう。率直に振舞おうとしても、どうしても固くなってしまう。特に異性に対してはカチンコチンになってしまう。考えすぎと言われてしまう。暗いねと言われてしまう。失敗や別れや間違いなどをいつまでもいつまでもくよくよ考えてしまう。あげくの果てにキレてしまう。結局ひとりが楽だからひとりで過ごしてしまう。無理して社交的に振舞ってもとても疲れてため息が漏れる。暗いってそういうようなことですよね。
私もそうです。特に中学の頃は思い出してもうんざりするほど暗かったですね。
別に貧乏でもないし差別もないし、病気でも障害でもない、フツウなのにただわけもなく暗いんですよ。持病のように暗い。だからひとりだとほっとして、ひとりになるとオタクになるしかないわけじゃないですか。だからオタクってよく分かります。
私が私として言えることはこのくらいのことであって、ホントは吉本の本をしっかり読まれるのがいいですよ。そこに書いてあるのは、つまりあなたや私のこの暗さ、この不器用さ、このモテなさ、このウジウジさには喩えれば海のようなネ、深い広い来歴があるということですよ。世間の人は自分のほうがちょっと暗くないくらいの優越感でいろいろ薄っぺらな説教をするでしょうが、それは聞き流す。そうじゃなくて、この暗さには海のように深い来歴がある、つまり人間が人間である根拠があると考えた方がいいと思います。少しえばったほうがいいですよ( ̄^ ̄)
そしてこのゼミでも、他のサークルみたいのでもいいですけど、いっちょう人間というものを腰をすえて考えてみようと思うほうがいいと思います。そのこと自体が暗さに振り回される人生からコントロールするすなわち自立する人生への転換です。どうせね、簡単に片付くことなんか一つもないんだから、せっかく暗く産まれてきたんだからね、暗さを武器に時間をかけて深い認識に潜っていきましょうよ。ぶっちゃけそう思います。