「何人も仕事を持たねばならない。僕は、何度そのやうに自分を強いる言葉をくりかへして来ただらう。そして僕はいまもそれを(仕事を)もってゐないのだ。これは異様につらく悲しいことだ」(風の章)

悲しいことですね(〜〜。) 悲しい貴方にポエムを贈ります。<たぶん死が訪れる>    吉本隆明

階段を昇るとき はじめの一歩が
ちょうど右足にかからなければ その日は凶だ
そんな占いに幼い日凝つた
おぼえがあるか
あの不安には未知の日々がひらいていた
不安といつても
親しみがどことなくよそよそしいのに
その理由がわからないで切ない
そんな程度のことであつた
やがて或る日 ちいさなきつかけで溶けてしまうだろう
あの予望は何遍もあつた

やがてどんな関係も
あの不安から出発していると知った
そのとき少女が登場した
ほかに得体の知れない影も登場した
少女は影であつたのか
影が少女であつたのか
影はやはり影であつたのか
そのときからじぶんの貌は仮面のようにおもわれ
じぶんの声は他人のように響き
じぶんはもうじぶんに出遭えなくなつた

いまも喋言つているとき
不思議な男が喋言つている
鏡に映すとき
不思議な男の貌が映つている
愛するとき
不思議な男が愛している
すべての出来事は
よそよそしいじぶんが
じぶんに仕掛けたとばつちりではないか

じぶんがぜんぶ
よそよそしいじぶんに変わつたとき たぶん
死が訪れる