人間は抑圧や欠乏のうちにおいても尚生産し創造することが出来る。それは一つの精神の反覆作用に似たものである。併しながらそれなるが故に、経済社会学的な革命を排さうとする芸術家の心理的な偏向は、不当であると言はなくてはならない。(芸術家について)

政治と文学という主題を吉本が十分に解明していない時代の吉本の考察なんだと思います。政治と文学という主題は当時の左翼の大きな問題意識であり、吉本はその主題に取り組むなかで自分の思想の道を発見していったといえます。それについてはまた長い話になりますので今回ははしょります。

おまけです。
「(母型論のモチーフについて書いている文章の続きです:註ヨダ)
もうひとつの欲求につなげるためにいうと、言葉と、原宗教的な観念の働きと、その総体的な環境ともいえる共同の幻想とを、別々にわけて考察した以前のじぶんの系列を、どこかでひとつに結びつけて考察したいとかんがえていた。どんな方法を具体的に展開したらいいのか皆目わからなかったが、いちばん安易な方法は、人間の個体の心身が成長してゆく過程と、人間の歴史的な幻想の共同性が展開していく過程のあいだに、ある種の対応を仮定することだ」(「母型論」の「序」より)