異常な個性がたどる異常な運命――それは人性的な原則に外ならない。誰もそれをどうすることも出来ないものだ。(〈少年と少女へのノート〉)

これは吉本自身のことを言っているんじゃないかと思います。吉本という人はふつうの生活人の生活を目指して暮らしていた人です。また両親も生育した下町の環境もふつうのものであり、その戦中戦後の学歴、就職歴、組合運動の履歴なども当時の若者としてありふれたものであると思います。異常なる個性と吉本がじぶんを言っているのだとしたら、その異常さとはなんになるのか。それはよくわかりません。しかし感じるものはある。それは一口にいって暗さです。そして吉本自身が頭がいいというのは病気ですからと述べているわけですが、いわば病的な頭のよさ。なんか平凡な私にはうっすらとしか感じませんが、吉本の異常な個性というものは確かにあるんじゃないかと思います。

おまけです
詩編「転位のための十篇」(1953)所収「その秋のために」より

ぼくを気やすい隣人とかんがへてゐる働き人よ
ぼくはきみたちに近親憎悪を感じてゐるのだ
ぼくは秩序の敵であるとおなじにきみたちの敵だ