我々は虚無にあつて何ものをも創造せず、何ものをも定義せず、何ものをも救はない。(〈虚無について〉)

虚無という形而上の言葉を「うつ」という形而下の言葉に置き換えてみます。うつは何も創造できない、理屈に耐えられないから定義もできない、誰も救えないしそもそも自分自身が救えない。しかしうつであろうとなんであろうと生きている以上、どこかにひそかなエロスの配置があるはずです。それが悪でも害あるものでもです。卓越した芸術家でない平凡な多数派の誰でもそれをわかるようになることが、この世界のよりましな未来だと私は考えます。

おまけです。  
「15歳の寺子屋 ひとり」          吉本隆明

人はみんな、かわいそうなもんだ。
宮沢賢治もかわいそうだし、夏目漱石もかわいそうだし、そういうおまえはどうなんだっていわれたら、そりゃかわいそうだ、ひでえもんだなと。
人間っていうのはかわいそうなもんですよ。生きるっていうのはかわいそうなもんだ。それはもう、いたしかたのないもんなんだと思います。
変更がきくもんでもないし、急に納得がいくもんでもないし、やっぱりかわいそうだなあというのを一種の食べ物みたいにして生きていくよりしょうがない。
それでもなんで生きていくのかっていったら、それは、先があるからでしょう。