個性に出遭ふみちは困難である。青年は決して個性的であることは出来ない。青年が錯覚のために死ぬのは、ここに於てである。(「夕ぐれと夜との言葉」)

個性というのは宿命という意味で使っていると思います。宿命というのは人間がその内面的な選択を現実にぶつけていって、いわば内面が核にまで削り取られていった段階で自覚されるものだと言えます。つまりあっちにぶつかり、こっちにぶつかり、色んなことをして生きてみて、その中で自分にもどうしようもなく繰り返される性向、似たような結果、懲りない衝動が見つかるならば、それはその人の宿命であり個性であるといえます。だからそれは散々生きてみて矢折れ刀尽きてみないと自覚されない自分の後姿のようなものなので、お若い方には見つけがたいといえるわけでしょう。逃げても逃げても逃げ切れない影のようにつきまとうものが、残念ながらあなたの個性というものです。それはたいてい認めたくないカッコ悪いものだといえましょう。
おまけです。吉本が亡くなった飼い猫に宛てた年賀状です。
墓地に眠る猫さんへ                                                             新年お目出とう。                                                                                いつでも目出たそうな隣の寺の墓地は、年の始め、平穏で何よりです。                                      新年で、すこし気にかかることと一緒に越年になりました。                                           あなたたちの子猫、孫猫にあたるナマちゃんと三吉くんが、年老いて、どこにも出ずに寝てばかり。                                                                        ときどきおしっこ、水を飲みにゆくだけの状態で、この冬を無通り過ぎてくれるよう祈るような状態です。                                                                      また墓地住まいの野良猫の眼の悪いショオコウさんが、冬を越せるようにといっしょうけんめい気を配っております。                                                              何よりもこの猫さんたちを守ってやって下さい。                                            賀正