「われわれによって解決されるべき問題は、先づわれわれ自身によって深化せられなければならない」(断想Ⅷ)

われわれによって解決されるべき問題というのは、自分達の生活や社会に関わる問題ということです。それをわれわれ自身以外の者が扱うということは、知識人とか政治家とか官僚とかが扱うということです。知識人とか政治家とかが社会について語り、こうあるべきだ、こう進めというようなイデオロギーをふりまく時、一般大衆であり生活者であり、庶民であるわれわれはどうするべきか。そのイデオロギーを取捨選択すればいいのか。自民党がいいか民主党がいいかというように。そうではなくわれわれ自身が自分の立っている生活基盤を深く掘り下げて感じ考えるところから始めるべきだという考え方が言われています。吉本によれば、それがイデオロギーを超え、政治家や知識人を超える唯一の道です。
そして知識人や政治家の課題は、この一般大衆が自ら掘り下げる、つまり深化する地に足のついた生活思想の深さと広がりを常に自分の思想やイデオロギーに組み込むことです。それが大衆の原像を組み込むという言い方で言われることです。もし一般大衆が、ラーメン屋のオヤジやサラリーマンや教師やエンジニアが、自分の全生涯の重さを自分自身で取り出すことができたら、どっかの立派な評論家の先生や学者や占い師や政治家の言うことが幼稚に感じられるほどに、自分の生涯や自分の生命体としての規模や深さや未来性を思想として取り出すことができたら、それが世界が変わるということだ、そう吉本は考えてきました。

では吉本の詩を一発

   「二月革命」      吉本隆明

二月酷寒には革命を組織する
何といつても労働者と農民には癲癇もちがいるし
インテリゲンチャには偏執狂がいて
おれたちの革命を支持する

紫色の晴天から雪がふる
雪のなかでおれたちは妻子や恋人と辛い訣れをする
いまは狂者の薄明 凶者の薄暮
おれたちは凶者の掟てにしたがつて
放火したビルディングにありつたけの火砲をぶちこむ

日本の正常な労働者・農民諸君
インテリゲンチャ諸君
光輝ある前衛党の諸君
おれたちに抵抗する分子は反革命である もしも
この霏霏として舞い落ちる雪
重たい火砲をひきずつて進撃するおれたち
が視えない諸君は反革命である

おれたちが首うな垂れて
とぼとぼビルディングの間を歩いているだけだ
とあざ嗤う分子は反革命である
おれたちがしみつたれた鞄をぶらさげて
明日の食料に戦慄しに出かけるだけだ
と宣伝する諸君は反革命である