「個性に出会ふ道と、空想を脱する道とは決して別ではない。むしろ同じことを別な表現でしているに過ぎない。」(夕ぐれと夜との言葉)

「オマエは青いね、現実はそんな甘いもんじゃねえよ」という新橋の飲み屋で中年サラリーマンが学生とか新入社員にセッキョーする言い方と、「現実ってタイクツじゃないですか。だからフィギアとかアニメとかにハマるボク達を責めるのは、タイクツな大人の嫉妬だと思うんですよね」という言い方を比べてみることにします。
するとどっちも中途ハンパなところで相手を責めているような気がします。
会社とか社会は甘くない。しかし、そこに全てを投げ入れたら、必ずうめき声が腹の底から上がります。そのうめき声は、妻に対して、子どもに対して、親に対して、そして自分自身に対して上がる。そこが吉本が生涯を賭けた思想への入り口です。
フィギアやアニメや音楽や絵画や演劇や、なんでもいいけど、それにとことん入れあげたら、必ずうめき声が上がります。そのうめき声は、「それで生活はどうするの!」という妻や子どもや親の声です。「残念ですが、今回は採用できません」「オマエなんか誰のためになるんだよ?」という社会や友人の声です。それは大人の嫉妬なんかじゃない。嫉妬されるほどのタマかよ?
だから吉本隆明をナメないように。吉本隆明の考えつめた一生は、腹の底から脳の全領域にいたる、私達の本当の苦しみの指針になるものです。