2017-02-11から1日間の記事一覧

僕は度々正義の味方になることを強制せられた。だが僕には常に一つの抑制があつて、正義といふような曖昧なものに与することを願はなかつた。それはひとつの知心とも言ふべきもので、僕が何を欲するかといふことを通じて、人間が如何なるものかを知らうとする心があつた。そして最も主要なるものは最もかくされてゐることを信じてゐた。(科学者の道)

ここで正義というものを曖昧なものと思わず正義の味方になってしまうとどうなるのか。それは「正義」という共同的な理念の陰に、自分の個人の心が隠れてしまうことになると思います。だから「自分が何を欲するか」とか、「人間が如何なるものか」というよう…

衰弱した精神にとつては休息が必要なのだ。それなのに僕はいつも酷使してゐる。すると増々肉体と精神とが不均衡になつてゆくのが判る。脳髄は敏感に衰弱し肉体はしこりのやうに悩む。僕は増々自分を窮地に追ひ込んでゆくようだ。(忘却の価値について)

まあ二十代の青年の吉本にこういうことを言われてもね・・・60歳を超えちゃうと、肉体が精神のセンサーだということがよくわかる。歯が抜ける、耳が遠くなる、目が衰える、そういったことは世界への通路が詰まっちゃうことなんですよ。しかし人の心身は不…