2015-09-14から1日間の記事一覧

文字にうつされた思想……そこにはもう生理はなくなつてゐる。(風の章)

生理がないというのは、なまなましい情動が文字にしてしまうと失われるというようなことだと思います。それでも同時代の読者が読む場合は、同じ時代の空気や事件や風俗を共有していますから文字の背後のなまなましい内面も推測がしやすい面があります。これ…

あまたの海鳥が海の上で演じてゐる嬉戯――それは幼年の日から僕の意識の中に固定した像を結んだ。港 船舶 三角浮標 それからクレエンの響き いまも残つてゐるのはその響きである。(風の章)

これは吉本が幼少期をすごした佃島のあたりの光景でしょう。吉本は自分の出生とか生い立ちとか人生の経路とかを隠したり美化したりすることのない人です。失敗は失敗として挫折は挫折として貧しさは貧しさとしてそのまま表現できる人です。なんとか自分じゃ…