2014-06-14から1日間の記事一覧

街々は亡霊でいつぱいだ。空は花びらのやうな亡霊の足跡でひかつてゐる。僕はひわ色の斜光の充ちた窓のうちがはにかへる。誰よりも寂かに、不安を凝固させようとして……。(夕ぐれと夜との独白)

こういう文章はリルケの作品の影響を受けていると思います。まあ言ってみれば真似してるわけです。リルケの文章をなぜ若い吉本が気に入ったのかを推測すると、病的な暗い感受性を抱えて、しかしそれでも社会に対する思考というものを手放さないところじゃな…

歌が沈む。少年の日、僕は何をしてゐただらう。街の片隅で。はつきりと幼ない孤独を思ひ起こすことが出来る。執念ある世界のやうに少年たちの間では事件があつた。(夕ぐれと夜との独白)

吉本は自分の体験から思想的な枝葉を伸ばしていく人です。きわめて抽象的な論理の展開にも体験的な感性や記憶がみっしりと裏打ちしている感じです。その自己体験を再現し論理化し普遍化しようとするひたむきさが、吉本に「チョッキ」を着せなかったともいえ…